淑やかな衝動
笹子ゆら


ことばに変えないのが正しいことなのか
わたしには未だに、よくわからないのだけれど
ことばに変える勇気よりはずっと軽いから
そのままであり続けようとしている


気がつかない振りをするのは
認めてしまうよりもずっと苦しいはずなのに
どうしてこんなにも意固地になって
このままでいようとしているのか
自分でもよくわからなくなってしまった


あの柔らかな声が私に向かって放たれることは殆どなくて
それでも少しでも向けてはくれないものかと
見かけるたびに案じたりしながら
その鼻筋だけを目で追ってみたりする


ああ、違っていてほしい、と願う
でもその願いがまったく意味をなさないことも
誰にも理解されないことも
よくわかっているつもりで
だからこそ
足りないことばで誤摩化そうと墓穴を掘ったりして
揺るがない甘さに怯えている


この震える気持ちが
すべて泡沫のように消えてしまえばいい
一時の気の迷いならばいい
でも
この気の迷いをどれだけの間続けているのか
もう知っていた


果たして、これは、
と問いただす必要もなく
冷ややかなような、ぬくいような
そんなことばで世界を変えようとしている


幻想でもなく夢でもなく
息が漏れるような甘さを持った
淑やかな衝動





自由詩 淑やかな衝動 Copyright 笹子ゆら 2012-10-13 23:10:58
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