虚しい夜に描いた詩
ただのみきや

重たい鉄兜を被せられた人がいる
気がついた時にはすでにそうだったから
それが自分だと思い込んでいる
ゆらゆら不安定に生きていて
ある日たまたまどちらかに傾くと
それっきり右なら右
左なら左へと走って行く
言葉もそう 右なら右
左なら左と どんどん転げ落ちて行く


あたまを置き忘れた人がいる
重たいのも痛いのもいやだから
いっそのこと下ろしてしまえば楽になると
ふわふわ雲みたいに生きている
だけどある日何処かへ行こうと思っても
風に遊ばれぐるぐる回わり すぐに
何処へ行きたかったかも忘れてしまう
言葉もそう ふわふわ軽すぎて
書いても打っても 浮かび上がっては飛んで行ってしまう


ブランコから降りられない人がいる
昨日の自分が信じられず
今日の自分が敵となる
一体何時からだろう同じところを行ったり来たり
だけど停止するのが怖いのだ
下りて 足を地につけて歩き出すのが怖いのだ
夕暮れ時を認めるのが怖いのだ
言葉を舌の上に書いてはまた消してしまう
発してしまうこと 後戻りできないことが怖いのだ


自分を背中から抱きしめようとする人がいる
誰を愛しても実は誰を愛しているわけでもない
自分の影を追い続けていることに気がつかず
井戸の底を 誰かの瞳を覗きこむ
逃げ水を追うような人生だ だが
そんな相手を愛してしまう者もいる
悲劇と喜劇はコインの裏表
言葉にならないその思いを
切子細工の詩に託す


自由詩 虚しい夜に描いた詩 Copyright ただのみきや 2012-10-13 00:37:50
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