パスコ
和田カマリ

木々の緑を水面に映す静かな湖のほとり
子どもたちが乗るボートが1艘
桟橋の近くのサンドイッチ屋に到着しました

「いらっしゃい、みんなおなか減った?」

女店主が言うと

「減った。」元気に答える子供たち

気持ちの良い風が吹く
桟橋の上で食べる
サンドイッチはもう最高
うれしい声が湖面に響いていました

悪戯そうな男の子が子熊のウエイターの
背中についているファスナーを引っ張った

「きゃっ。」

現れたのは醜い痣

「見ないで。」

小熊を抱き寄せながら
女店主が叫びました

「悪かったから、私が悪かったから。」

昨日までの記憶を全て
失くしてしまっていた子供たちも
泣いている彼女を見て
少し不安になった様でしたが

「ぴぃぃぃぃぃ、舟が出るよ。」

優しい笛の音に促されて
いそいそと一斉に
ボートに乗り込んで行きました
休憩時間は終わったのです

ボートは再び湖面を滑るように動き出し
桟橋の上では女店主と子熊が
舟の姿が見えなくなるまで
ずっとずっと
手を振っていたのでした

「ごめんね、坊や。」

子熊をしっかり抱きしめると
彼女は深いため息をつきました

遥か彼方のほうに
新しい子供たちを乗せた
次のボートが見えています
さあ!早く
超熟イングリッシュマフィンの
準備をしなければなりません


自由詩 パスコ Copyright 和田カマリ 2012-10-11 14:21:48
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