つぶて
はるな
信じられない、と言うのが聞こえたあとにもう一度信じられない、と言うのが聞こえたので私は礫(つぶて)になってしまった。弾けて路傍。鮮やかなつま先であなたが私を蹴り上げる。信じられないと言う声がまだ胸で渦巻いていくらでも弾けた。
なつかしい歌を聞いた。それから川の近くに泊った。春には二分ほど立ち止まって桜をみあげた。いくら思い返しても思い出はその三つしかなかった。どんなにこまかく辿ってみても三つだった。
汗はいつも気温のせいではなかった。暗いのは夜のせいではなく目を閉じるからだった。温度は季節を裏切り続けて夏へ凍え冬に沸騰した。そのようにでたらめな時間がどこかへ着地するわけなどなかったのだ、と思う私はいまは礫(つぶて)。
信じられない、と言う声がするまで、私も信じられなかった。そうしてあなたが信じられない、と驚いてみせたあとで同じ気持だったし、同じ気持になったときにはもうすでに何もかもは信じられる現実に定着していた。声がそうした。信じられない、と思うことは、何もかも信じられる現実のなかにいるということであった。
そして、ばちばちと転げながら坂を上っている。
あなたにもう会うことはないと言った。あなたは信じられない、と言った。
ほんとうに信じられない、私も思った。
どうしてだろう、と思った。信じられない、と思った。
信じられない、と、もう一度、あなたが言った。
礫(つぶて)になって気が付いてみれば、わたしは一度もその言葉を口に出しては言わなかったのだ。