氷点下十度の記憶
永乃ゆち


教室の隅に削った名前だけ生きてるようで泣きたくなった

雑踏に心が蝕まれてゆく泣きたい泣けない私をさらって

雪の中歩幅の狭い足跡を振り返り見るまだ生きていく

君はまだ知らなくて良い氷点下十度の記憶がある事などを

泣くことを咎められたら早朝に草花を濡らす露になりたい

学校を始めてサボった真昼間のチョコレイトはただビニイルの味

青色が正しく並ぶ銀色の薬のシートを激しく憎む

風船が割れても夜は探せない冷めたピエロがタップを踊る

脳内に放出されたドーパミン私は術を知らずに笑う

金星が慕情に暮れて太陽は海に消えてく熱を残して




短歌 氷点下十度の記憶 Copyright 永乃ゆち 2012-09-25 06:07:39
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