信仰と文学に関するメモ 一
るか

信仰と文学に関するメモ
 
 20世紀後半における国内において、世界史的な価値を有する詩業を残した大詩人といえば石原吉郎の名を挙げることが可能であると思うが、彼に限らず、日本の近代文学は、宗教(ある種の外来の宗教、としておく)とけして分かつことができない関係にあったことは、とみに近年、見過ごされがちであるように思えてならない。良くも悪くも、宗教が文明の精神的中枢の位置を長く占め、総じて近代化というものが欧米化であることを思うとき、欧米の宗教が近代的発展のために、またそのアンチテーゼの意義をも含みつつ摂取されたことは、特に驚くにあたらない。精神的な営みという側面の強い労働である芸術文化が、文明の精神中枢としての宗教に敏感であったことは必然である。
 科学とは、「科学精神」ともいうべき、分化と共にあって普遍的たらんとする精神的・知的労働であるということができるが、それが有する本質が否定=疑問にあるとするならば、それは本来、そのままの形では、個人および文明の精神的中枢たることはできない。したがって、科学はイデオロギーや神話、すなわち宗教的な形姿を与えられることによって、いわば擬似宗教として、歴史的な宗教のポジションを交代しようとするベクトルが、近代性の基本線をなしていた、そんな言い方もできるであろう。


散文(批評随筆小説等) 信仰と文学に関するメモ 一 Copyright るか 2012-09-25 05:14:52
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