ホットコーヒー ふたつ
あかり


田舎のネオンをにじませてゆく雪
ここには似合わない音楽ばかり流れている街

ガソリンスタンドにはタイヤ交換の長い列
観覧車はもう、来年の春まで動かない

寒いんだから
余計な言葉を喋らせないで
二人とも雪を避けて うつむいて歩く

レストランの窓を曇らせる湯気
その誘惑におずおずと負ける

ホットコーヒー ふたつ
あぁ、ふたつか
そっか、あなたが居たんだもんね

ガラスを手でこすって 外を眺める
街路樹が白く染まって 夜の黒によく映える

ホットコーヒーふたつ お待たせしました

手を伸ばせばそこには
人工的だが確かな温もり
指から全身へ伝わってゆく温度が愛おしい

あなたは煙草を吸ってばかり
退屈でしょうが 我慢して

「飲まないの?」

「いらない」

「なんで?」

「手が寒かっただけだから。中身はどうでもいい」

そんなあなたには、缶コーヒー程度の愛で十分だね
と、言いたかったけれど

あたしの中身だってもうどうでもいいんじゃないの
と、言いたかったけれど

冷えてしまったのは体だけじゃなかったから
もう余計な毒は吐かないようにしようと決めた

寒がりのあなた
こんな季節にさよならなんて酷でしょう?

春が来たら 全て溶かしてくれんのかしら?







自由詩 ホットコーヒー ふたつ Copyright あかり 2004-12-14 19:06:18
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