失語症から
石川敬大





 掠れた息をつくように
 ベッドにそっと
 言葉にならないものを吐いたとき
 その言葉にならないものはすぐ露のように朝の陽にきえた

 あの日のあの雲にはもうであえない
 とりかえしがつかないこと
 わかっている
 わかっているけど
 なんどでも
 身体はでかけてゆこうとする


 しっかりしてと叱るだれかがいて


      *


 いないはずのひとがいた
 すわっていた
 あたたかい冬の縁側で日ざしを浴びていた
 カゲがのびて
 あのひとだとおもった
 カーテンがゆれていた


 子どもらのかんだかい笑い声


 だれかのくしゃみ
 だれかの咳きこみ
 くるまの音
 とおくからの雑沓がもどる
 いないはずのひとは
 やっぱりいなかった


      *


 朝のマクラがぬれていた






自由詩 失語症から Copyright 石川敬大 2012-09-12 15:00:16
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