ろまんちすと
ただのみきや

ロマンチストはどの時代にもいる
ここにも一人

彼はインチキ古物商と素人骨董愛好家の一人二役だ

誰もが経験するようなありふれた出来事を
時を超えて微笑みかける
運命という名工の作として心の床の間に飾っている

彼は通り過ぎる女性のほとんどに恋をする

今日も沢山の恋物語に埋め尽くされるけど
きまって一番最初の物語を読み返したくなるものだから
いつも探し物で心の書斎はごったがえしだ

彼はどこに居てもそこには居ない

夜には哲学の森で行倒れ 朝には詩情の光を天まで駆け上る
街を行き交うカラフルなニュースにコードを付けて
雨のように皆の頭上の黒い傘を鳴らしてみたり

彼は天性の腹話術師 それとも彼こそ腹話術の人形か

虫の悩みを聞いてみたり 鳥の歌を翻訳したり
花と一緒に涙を流し季節の葬列を見送ったりもする
月と一晩中ポーカーをしては「おまえとは二度とやらない」と言われたり

彼は廃品回収業者 いやいやイカれた乞食野郎さ

誰も目を止めはしないガラクタを拾っては耳を当ててみる
美しく飾られたこの世の対極にある
敗北者の屍を担いで来ては自分の心の庭に埋めている

彼はペンギンのように海を飛ぶが空ではカナヅチだ

現実社会じゃ鉛の足枷があるようだ 雄弁などとは程遠い
それは首飾りの外に転がる鈍色のビーズ
理由あって人の輪に入って行く時 まるで踊れない無骨者のよう

彼は狂信者ではない むしろ現実主義者なのだ

人はこの世に存在し始めてから何一つ進化などしていない
争い奪い合う方法が 強者が弱者を支配する仕組みが 快楽の種類が
より洗練されて便利になって手軽に行きわたるようになっただけ

彼は知っている やがてすべてが滅び去ることを

その魔法はどこか悲しげだ 煌めく光の向こう 終わりが透けて見えている
それでも彼は変わらない
心の宝箱にはあの頃のビー玉が今も詰まっている

ロマンチストもやがては死ぬ
だが死に絶えることはない

己の存在価値について問われれば
トランプのジョーカーみたいに笑ってみせる
君だってそう 彼の目にはクイーンなのだ
ハートかスペードかは別として




自由詩 ろまんちすと Copyright ただのみきや 2012-09-05 22:52:59
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