“い”はイチジクの“い”
青土よし




冬の海を見に行くことにした
しかし今は夏なのでそれも難しい
仕方なくわたしは「孤独」に電話を掛けた
――もしもし
――わたしだけど
――ああ、きみか
――うん
――どこか痛むのか
――あのね、今からうちへ来ない?
「孤独」は受話器の向こう側でうなずいた

「孤独」は間もなく開け放した窓の隙間から入ってきた
「孤独」は
――やあ
と言って微笑んだのでわたしは立ち上がって「孤独」を抱き締めた
わたしたちは抱き合ったままシーツにくるまった
「孤独」は先週行った星の海の話を聞かせてくれた
わたしもそこへ行きたいと言うといつか一緒に行こうと「孤独」は言った
わたしはいっそう強く「孤独」を抱き締めた

いつの間にか眠っていた
隣りに「孤独」の姿は見当たらなかった
開け放されたままの窓から見える空はイチジクの色をした朝焼けだった


自由詩 “い”はイチジクの“い” Copyright 青土よし 2012-09-05 03:43:02
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