らいみ

すごく急いでいたのに
急いでいない人が前にいて、
その人を追い越してまでは急ぎたくなくて
その人のお尻を見ながら階段を上がった。

日比谷線の車両の扉から
階段を少し上って、改札口まで
改札から階段を上がって、駅前広場まで
ほんの一分もかからない距離
それが永遠に思える。

ああ、いったい何を急いでいるんだ?
このお尻のお姉さんは、ゆっくりしているじゃないか!
ふわふわのフェイク・ファーをゆったりと首に巻いて
不揃いのドットが並ぶセーターを着ている
つやつや栗色の髪を、時間をかけてセットたにちがいない
カールが生き生きとはねている。

Gパンは微妙に下目
背中が出るか出ないくらい。
ベルトの横からジャリジャリと数本の鎖を鳴らして
優雅なモンローウォーク
右、左、右、左、
お尻が揺れてるじゃないか!

お姉さんのお尻が左側に方向転換して
目の前に駅前の広場が開け
永遠の時間は終わった。

さあ、走りなさい。
あなたは遅刻です。
水道水をふりかけて、手櫛でなでつけた髪
脱ぎっぱなしの洋服の山から引っ張り出したシャツ
優雅なお姉さんは、優雅な職場へと去った。
あなたは、しょぼい職場にしょぼい格好で走りなさい。

はーい。
そうします!
しょぼいけれど愛しい時間。
しょうがないから、走ることにします。


自由詩Copyright らいみ 2004-12-13 12:20:25
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