嫌悪症
HAL

もういまの世代には
なんのことって言われそうだけど
昔々プロテストソングなる音楽擬きがあった
それは殆どフォーク・ギターを遣い歌われるけど
馬鹿みたいな音楽のようにぼくには聴こえた

それは自分に酔ったアジテーションであり
安っぽい言葉の並ぶ演説でもあった
ひとを欺く大安売りの檄のようでもあった

でもどうせ演るならサイゴンの
マジェスティック・ホテルの前でいつテト攻勢が
起こるか分からない場所で演れよと想っていた

銃弾の飛んでは来ない安全地帯で
戦争反対を叫ぶ愚かしい偽善
一種のジャンク・フーズの様な
日持ちのしない言葉と単純コード

いかにも正義然としているけれど
然であって正義ではなかった
もちろん正義はいつも
その程度のものだとは知っている

ぼくは嫌いだけど蟹工船を
読む方がましなような気もした
贋物を聴いていると耳が腐ってくることに
気がつかないイデオロギー愛好者の幼稚性

チャールス・ミンガスのアルバム《道化師》に収録された
アルティックA7を叫ばせる《ハイチアン・ファイト・ソング》は
ウッド・ベースの4本の弦が唸る正しい戦闘的怒りだけど
プロテストソングは去勢された犬の弱々しい
鳴き声の様な低俗な怒りのようだった

ぼくはもちろんエレクトリック・ギターも
羊の腸で創られた弦を張った
ガット・ギターも好きだけど

エレクトリック・ギターを
エレキ・ギターと呼ぶ奴やヴェンチャーズとか云う
出稼ぎバンドと同じくらいプロテストソングが大嫌いになった

その結果もう治ることのない
フォーク・ソングとフォーク・ギターを
絶対に聴かないフォーク嫌悪症になった

もちろんこれは
スリーフィンガーのできない言い訳では決してない






※作者より
例外はあります。Mr.Bob Dylanと中島みゆきクンです。二人とは幸いにも、Rock'n' Rollへと舵を切った時の出逢いでした。また、さだまさし氏も吉田拓郎氏も認めます。挙げた四人はそれぞれの生と云う幹に触れつづけて音楽を創っているためです。それは言い替えれば命を削っていると言っても過言ではないためです。


自由詩 嫌悪症 Copyright HAL 2012-08-28 22:30:41
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