『お客様は神様です』が口癖の歌手を
ずっとぼくは揶揄もし馬鹿にもしていた

しかし彼がシベリア抑留者だと知ったとき
餓死・凍死・狂死・刑死・自死で亡くなった同胞と
同じにならず瀕死の想いで
祖国に帰り着いたのを知ったとき
『お客様は神様です』の真意が分かった

彼は骨身に沁みて知ったのだ
神はどこにもおらず
自分を救ってくれたのは
同じ人間だと云うことに

そして彼は一言もシベリア抑留者で
あったことを明らかにしなかった
シベリア抑留の凄惨も語らなかった

それは彼が芸能人は客に夢を売る
仕事だと心から想っていたからだ

揶揄し馬鹿にしたぼくこそが彼に取って
神でもなくもちろんお客様ではないものだった