魔の河
灘 修二

河の流れには魔物が住んでいる。
黙っていても
向こうのほうから
おまえと話すことはない
おまえと話すことはない
と言っては、逆流して近づいてくる。

話すことがないなら
話すことはないと繰り返さないで
流れに逆らわず、
そのまま流れて行っておくれ。
広い太平洋の方へ。

おまえが妻と子供を奪ったことは責めないから
友がおまえに呑まれたことも忘れるから
わたしの家を全部さらっていったことも
ぜんぶ ぜんぶ
ぜんぶ水に流すから
こうして憂いに沈んでいたい
わたしまでも呑み込もうとしないで
わたしから遠いところへ流れて行っておくれ。


自由詩 魔の河 Copyright 灘 修二 2012-08-10 23:40:01
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