降り来る言葉 LXI
木立 悟





木陰に置かれたこがねの車輪が
午後を静かに染めている
蒼の扉の前で躊躇し
坂の下の影を振り返る


稲妻が生まれる直前に
すべての曇は止まっている
階段を見上げる蒼い傘
時間の斑を映している


影がたまり
薄明かりが差し
曲がり角だけが残り
森へ向かう


人ではないもの
近く 近く
みどり 格子
冷ややかな 波


さかさまの目に
終わりは終わりに映らない
静けさ 気づけなさ
何もなさが降りつづく


壁に描かれた花も火も
午後の光になだめられ
星が来るまでじっとしている
樹と径だけの景のなかで


空に重なる廃屋のかたち
雨どいを流れる声の色
風は毎日
消しては運ぶ


毒の光 息の光
夜へ向かう街
さざめく無人
金をすぎる 蒼をすぎる


兆しの一歩 兆しの火
水の全季 呼吸の螺旋
手にした鼓
陰を透る


冬とふちどり
持たざる声
そのままの水
そのままの宙


遊び弄び 行方は遠く
道はむらさき どうしようもなく
去りゆく鬼の背 けだものの背
同じ血と知る 土と牙の道


腔と脂
滴と穂
鏡のなかの街は葛色
いつわりも人もいない色


手の甲で
さえぎれるだけの光をさえぎり
水に落ちる枝の影
不確かな色の時間を見つめる


曇りに潤む曇りの目から
径は無数に現れて
夜の鳥や標をたばねる
どこまでもひとり歩めるように


枝をひとつ
選べば森
映る 廻る
筒にうたう


入れ子や冬や
同心円の重なりが
景や煙をほどきほぐして
はじめての朝を飲み干してゆく


紙と結晶
まばたきの地平にたなびいて
昇るもの さらに昇るもの
幾重の空のかがやきを聴く


























自由詩 降り来る言葉 LXI Copyright 木立 悟 2012-08-04 10:08:04
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