その白い夏
ルナク
つきぬける空の青さにたえかねてアゲハの羽の黒を目で追う
向日葵の迷路で迷っていたいのに背がのびすぎて出口が見えた
けだるさの中の憂いに抱かれようサラが歌うはサマータイムか
街中が陽炎のなかユラユラと見えているのは僕だけですか
夕まぐれスティールドラムの雨が降る打て打て打て打て忘れたいのだ
忘れると決めたこころにに夏がきて肌のほてりをもてあます宵
午前4時ようやく熱のひく街でまだ燃えのこる夜光虫の翅
飛ぶ子らを追いかける海 幾億の汗ばんだ手をその白い手を
水時計わたしを置いて西回り溶けよとねがうビイドロ赤い
やわらかい歯車の笑う午後2時に皆既日食しそこねた月
くじら寝る丘はひだまり夏時間わすれた年の絵日記を描く
青・青・青こばめぬ水の鋭角にちぎれて香るウミネコの夢
氷柱をけずって造ったとうめいな鳩二時間で夏空に消え
水晶菓ひと欠口にほおばればキンと吹き抜く青白き風
孤高なる猫の瞳はペイルブルー奥に異国の街並みがある
炭酸の泡それぞれが主張する無色の言葉みんないとしい
まいあがる噴水にかかる橋を見た八月七日・日比谷・午後・にじ
泳ぎすぎたプールの後のけだるさを思い出させる夏の感傷
左手は隠しておきます。夏薔薇を二十万色塗り分けるまで
暗室でうずくまる時に聴こえてきた君の言葉はふりそそぐ陽だ
「陽にあたれ遮るもののなにもない高原にたて夏草になれ」
SHINE!草に花にアゲハに木々に背に沈むこころに荒むこころに
玄関にゆりが三輪咲きました。ほっておくのでやがて枯れます
反響が返らぬほどのたかぞらへ夏をつきぬけ鳴る白い鐘
誰ひとり知るひともいない海岸で喧騒の間の波を見ている
青空をたべてムクムク伸びてゆく入道雲の大人びた顔
勝手戸の前にて朽ちて干からびるタイサンボクの白かった花
昔なら受話器の色に救われた 白いテレホン鳴るあてもなし
カシス、カシス、カシス、カシス繰り返し叫んでみても霧は晴れない
白い夏いつかすぎれば白い秋。人はこうして生かされていく