冬と息
木立 悟





たくさんの傷が同時に治りかけ
あちこちがみじめにむずがゆい
降る花のなかの
在る言葉 無い言葉


蛇の肌
猫の首
落ちつきのない
みどり みどり


三つの角に火を点し
夜にこぼれる
粗い金を視る
待ちわびるもののない
階段と音


巨きな影が
街と野を分け
夕暮れは
石の路を昇り


風がふいに
月を見なくなり
明るく直ぐにわだかまり
遠くのうたを 連れてこなくなり


みどりを置いて
他は居なくなり
冬は空へ空へ散る視線
常にそばを離れぬ岸辺


見るまに音になる岩を
こぼしこぼしこぼしこぼして
わずかにからだに残った塵の
示しつづける色と夜をゆく


燃え上がる腕の
炎の先
いくつもの扉が
川を流れる


氷が氷を咬む地から
曇は仲間はずれの名を呼ぶ
多くは応えず
名ではない名を書きしるす


常に水や鏡に居ながら
姿を裏切るものは裏切り
かさぶたの国の虹と去る
少し硬くなったつまさきで


午後にも夜にもなれぬまま
けものは糸を歩いている
冬は冬の目のなかに
いのちを捨てたり植えたりしながら
息の指をたなびかせている








































自由詩 冬と息 Copyright 木立 悟 2012-07-28 00:51:00
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