降り来る言葉 LX
木立 悟






けものの時間が人から生えて
見知らぬかたちをなぞりかがやく
断崖まで 河口まで


海へ至る昼
白く傾いで
高さは低さ
流れなだらか


板たち 鳥たち 兄妹たち
刺しては認める影の針たち
暗がりへ 暗がりのむこうへと
導くことさえしない瞳たち


むらさきの葉を一枚ちぎり
まぶしくてあけられぬ片目に添わせ
誰を見るつもりもない水を見ひらく
誰も曇りに午後を見ない日


硬さでもなく
滅びでもなく
鉄のまま広く生きつづける息
短い朝のむらさきを着る


火口湖に夜をひたす手
城壁をめぐる階段に
砂を運んでは足跡を消す


正方形だけが歪んで見えて
他のかたちは皆そのままの日
アンテナの森から林から
宙を染める曇の碧


斜面を覆う灯
常に何処かを駆ける足音
明るさを明るさにかき消す波
粒とも切れ端ともつかぬかがやき


うすい紙を
転がる夜
部屋の四隅の見張り役
建設ではない建設の音


滅びでもなく
息抜きでもなく
野と街のはざまの無音に
ひたされる手のひら


ただ頭をたれたまま
水色の影絵を盗み見ながら
いつかは消える岩の碑文に
草の読み仮名を添えつづけている





























自由詩 降り来る言葉 LX Copyright 木立 悟 2012-07-24 00:36:17
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