都市の予告
takano

蒸れ沸く都市

浸り結ぶ地下道

廃液は沸点をふりきり

南国の氷点でさしとまる

積雪の外壁は日没とともに

霙の通路を水平にのばしていく

恣意なる磁場とその伸縮の確執は 無慈悲に逆さ如来の足首を縛り吊るす

電飾のうるおう河のながれは 無数の画素の瞳のなかで まだ乾いたままだ


中央公園の空風がふきつけるベンチに疲れたアシモが顎をかかえこんでいる

その背後から 片羽を女にくわれてダッチロールする足長蜂が背負われた氷函に軟着陸をはたす


擦れる捲る朝のホームだ

カメラ音のシャシャり捲る

留置所の春の挨拶のファイル

めくるめくダンスパーテイの夕暮れ

回送中に工事現場でバスジャックを撮りつづけるバスガイド

黄金の噴水装置が遊泳許可された コルソの丘

重力と呪力にまけた水軍の惰性的たれながし

鬼やんまの群れをやりすごしたあとで 交差点の信号が黒色を点滅させる


初夏の風物 神輿の行列で閉店セールの賑わいが 戦禍の驟雨をよび 路地裏で夜通しふりやまない

(隠れ蓑のように吐き捨てられた痰唾は 他人の裾影からすりぬける)
(都市の陰にまぎれた卑怯者の生活実態)

大陸への郷愁は列島の端々でめくれあがり 膨れ上がった島幻想の呼吸法を身につけ 孤島での姑息なサバイバルゲームに興じ、昼夜をとわず自慰にふける 

液晶の粒子たち

(この都市なる空隙の実相)


アスファルトの亀裂に芽生える種子たちよ

あなたはそこでむくわれるのか

あなたは 触れたとたんすくんでしまう黒い湿潤のよどむ地平に 傾いだ眼差しをむけている

あなたが育つ都市の土壌は青く無機質だ

どんな死に向かい どんな笑顔をうかべ散ることだろう


かしいだ雑居ビルの日陰の割れ目で そんなあなたに目をとめるものはだれか

風雨のはきだまるビル群の谷間には 都市で生成されたあらゆる負性の残留物がおちてくる

都市でわすれさられた その禁忌の囲鐃地に足をふみいれる旅人さえとだえた

都市は言葉をうしない 路地裏や閑静な住宅街の夜の外灯のしたで 泡を吐いた

泡は泡でしかない 

泡は何年も何年も泡でありつづけ 泡として死滅しきえさった

(泡が言葉の発芽を契機し この都市を隠蔽する)

ひとびとは都市に欲望し 都市は欲望を肥大化させた

あなたは 肥満した骨細の都市の「おくび」の泡としての再生産に加担し 都市を延命させてきた自己撞着に気づきはじめるだろう

粋と侠の亡霊が宿る 囲鐃地に幽閉された向日葵の種子たちを その青い大地からすくいとり 土のあたたかな匂いを(散布)蘇生させよう、 けれどそれは「可能」か を問う

(都市を抱いて声高にさけびはじめる)

この都市に遅すぎた死亡宣告をしたあとで 

土俗的な自然の祝詞を 吃音のようではなく 念仏のごとく 声帯の奥からおくりだすことこそ然るべき霧も霧消し 自己の混濁したあやうい心域にふみこめよう


腐乱した鼠や仔猫のぬいぐるみがふわふわうきしずんでいる地下道では 排水溝にへばりついた水藻が黒光りし 侵入者を阻止している

それは未来をしりぞけ そこだけ時間がとまり 廃水として過去への眼差しが 悔恨や堆積した不条理の感情を赦し 透析することで昇華される情動のやすらぎを保障しているかのように


都市は湯だちはじめる 日の出とともに 蒸気や粉塵とともに しかも掟のようにたちあがる

朝靄のなか 都市へむかう一歩をふみだし 最寄駅へあるいていくと 通勤者の一群にのまれる ホームではすでに確執がはじまり 車内におさまったあとでも 1本の針はたちつづける

改札前でいきなり男がわめきなぐりかかるが その映像をファイルに保存し 歩道にしつらえた植え込みに唾棄して オフィスのドアをあける

窓の外では 瘴雨がふりはじめていた

小走りしてのがれるバスガイドの小旗が小刻みにふるえ 不治の皺を編んだ

てくてくと 種子たちは 雨宿る

 




自由詩 都市の予告 Copyright takano 2012-07-23 08:50:19
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