恐竜時代
さき
高度な文明社会の
生きる意味教信者と
その昔付き合っていたけれど
今は別れてせいせいしている
私がまさにどん底にいるときに現れ
「そんなキミでも世界の何かに必要とされて
今を生きてるんだ」
なんて言われてうっとりしたことも
正直に言えばあったのだけれど
それって
「何かの役にたたないと生きていっては駄目」
みたいに聞こえるのよね
私は彼と別れてから
文明社会とも決別することにして
ずっと太古の森を歩いている
裸足でね
服なんか一張羅
狩りに行くときの服しか持っていない
ここには当然文明なんかなくて
毎日が自己責任
誰が死んでも
自分が死んでも
それはそれで仕方ないこと
その代わり他の人にも関心がない
助けてもらえないし
誰も助けない
まだ
人が生まれる前の話
善悪が生まれる前の話
ただし
なんでも食べられるようになった
皮膚が硬くなり
舌が長くなり
瞳孔が縦になって
嫌いだった虫でも
身体にとっては必要なものだと分かったから食べられる
前は誰かに言われたレシピで
イタリアンとかフレンチとか
懐かしいなんて無縁のものばかり作っては食べていたけれど
どんなに苦くてダサくてまずくても
もっと実直で誠実な食べ物
これが生きる力になる
そうだよ
生きる意味なんてものは
文明と一緒に生まれたものなんだよ
生きる意味がなくても生物の日常を積み重ねたら
完全に生きていけるのに
生きる意味を探して命の存在すら危うくしようとする
そんなものに支配されている生き物は
人間だけなんじゃないの
あの生きる意味教信者は
今でもシャクシジョウキという良い定規をもっているようで
まんまとはまった女子と結婚し
夫になり、父になり、会社では偉くなった
そうして意味がある自分の人生をヒエラルキーの最上に掲げ
この世の善も悪も知らず
太古の森でトリケラトプスの背に乗り
まだまだ遊んでいる私に眉を顰めている
“哀れな
文明も知らず”
それでも私は
狩りで汚れた服を洗ったりなんかしない
文明の力なんか借りずに
自分の両の足でのしのし威張って歩くんだよ
どんなに荒れた大地でも
或いは危険なジャングルでも
この世界は全て
私のものなんだって!