拝啓 カート・ボネガット殿
HAL

いまは天国におられる
カート・ボネガット殿

あなたは著作の中で
一切 悪人を登場させなかった

そこがぼくが愛読者であったし
敬意を払う大きな理由でした

しかし遺作となった《国のない男》では
あなたは母国であるアメリカ合衆国を

徹底的に罵倒し怒りの声を残されている
取り分け冗談にしてはならない三つのこととして

ケネディ大統領の暗殺
マーチン・ルーサー・キングの暗殺
そしてアウシュビッツを挙げておられる

しかしぼくは想うのです
アメリカ合衆国の為した
ヒロシマ ナガサキへの原爆投下も
冗談にしてはならないことでは
なかったのでしょうか

ましてや一瞬して9万とも12万人とも言われる
人間を焼失させたヒロシマに落とされた
原爆をリトルボーイと名づけたのは
悪い冗談を越えているのではないでしょうか

その意味であなたはやはり
ぼくの侮蔑を込めたYankeeとは呼びませんが
しかしアメリカ人であられたのでしょうか
それだけがぼくはあなたの愛読者として
無念で残念で悔しくてならないのです


自由詩 拝啓 カート・ボネガット殿 Copyright HAL 2012-07-22 22:29:47
notebook Home 戻る  過去 未来