夏の夜
ホロウ・シカエルボク
歩道の縁石に
繭のように座り込んで
きみは
つぎの言葉を待っていた
つぎの言葉など
もう
ないというのに
プラチナブロンドの
髪に
ピースマークの
髪留め
薄いメイクに
薄いブルーの
少女のようなサマードレス
雨上がりなんだから
そんなところに腰かけちゃ駄目だよ
雨上がりなんだから
すてきな服が汚れてしまうよ
大事なことの
はずなのに
ぼくは
そう
言えなくて
帰るべきなんだと思った
ここで
さよならと言って
ぼくの
帰るべきところへ
ほんとうの
帰るべきところへ
だけどきみは
そこに
座り続けるだろう
本当に足りないひとことを
はっきりと
そのこころにとらえるまで
ああ
きみは
最後の最後まで
ぼくを圧倒したままで
終わろうとしてるんだね
ナイトライトたちが
不自由な蝶みたいに
飛び交う週末の繁華街
その外れで
ぼくらは分断されて
ぼくときみになる
突然
だれかが缶ジュースを買う
音が
暴力のように響いて
きみは
すこし身をふるわせる
だいじょうぶだよ
昨日までなら
そう言うのは
ぼくの役目だった
つぎの言葉なんかないんだ
つぎの言葉なんかないんだぜ
そこに座っていてもどうにもならないんだ
もう
なにも
ぼくには言えることはないんだ
かたくなな
きみを見てると
ぼくは思わず
声をあらげてしまった
いいかげんにしろよって
すると
きみは
立ちあがって
にっこりと笑って
ぼくに背を向けて
駆けだして行った
ぼくもよく知ってる
でも二度と行くことのない
清潔な部屋の中へ
周りの視線が気になって
ぼくはそこを離れた
自動販売機で缶ジュースを買うと
ガラスが割れる音がした
ああ
夏の夜だ