朝の珈琲
服部 剛
いつになくぱっちり目覚め
むくりと起きた僕は
妻にお風呂セットの袋を渡され
車のキーを廻し、アクセルを踏む。
青信号の交差点で、すれ違う護送車。
(青年達の母親は、今頃どうしているだろう?)
何年も前に、スクーターで転んだ
おじさんが顔を歪めていた、曲がり角。
(あれから怪我は、治ったろうか?)
赤信号になり、ブレーキを踏む。
前の車は「福島ナンバー」のスポーツカー。
(彼の両親は地震の時、無事だったろうか?)
そんな朝の気紛れなドライブの
フロントガラス越しに
語りかけてくるいくつもの情景達に
思いを馳せて
人もまばらな朝のカフェで珈琲を啜りつつ
息子が生まれた一年前、医師に診せられた
「一本多い染色体」の写真と
大粒な、妻の涙が甦る
昨日の夕餉の食卓で、僕等三人は
幸せそうに笑う「一枚の絵」になっていた
(願わくば、人の心の哀しみに
あらたなる日が射しますように――)
珈琲を啜り終えた僕は
お風呂セットの袋を手に、腰を上げ
カフェの外の駐車場へ歩いた