熱源
砂煙

買ってそのままにしていた自由帳が腐っていた。白い紙がずうっと続いていて白く腐ってい
た。目をそむけてもその白は瞼の中まで追いかけてきてだんだん日常の景色までも白く見え
始めていた。夏休みの初日に亀を捕まえて。川で。どこへ逃がそうかと迷っているうちに自
由帳のことは忘れてしまった。忘れる、ということは恐ろしいことだと。子どもながらに、
思った。浦島太郎に弟がいたなら、彼はきっと、もう生きてはいない。

小さいものが愛おしくて。成人式の飲み会の帰り道に小さいものを追いかけて、自分の部屋
の押し入れに行きついた。押し入れの中。で、見つけたのは白く腐った自由帳で、子どもの
頃の自分は何も書き残してはいなかった。描いて、描けて、描けていなかった。何も。
押し入れの中はじめじめしていて、そこで生まれたのではないかと。自分は。錯覚。皺、ひ
とつないスーツを着たまま押し入れの中で眠った。スーツがきしむ音が微かにするのを寝な
がらに感じた。やがて堅くなったスーツは薄氷のようにバラバラに割れてしまった。もう拾
い集めようともしない。夢ではなく、ただ自由帳はあれからずっと腐ったまま。


自由詩 熱源 Copyright 砂煙 2012-07-17 18:11:18
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