shasou-斜想
Neutral

どこかにいけて
どこにもいけない
逃げる事がどういう事かも分からないまま
私は今日も走りだした

バックミラー越しに見る
通り過ぎた景色は
全く知らない場所に思えてしまうよね
見慣れたはずの街なのに
そう、いつだって
私の世界は自分を中心に流れていたんだ

辿りついたそこは
かつて住んでいた所
私が唯一、子供時代の楽しかった気持ちを思い起こせる
この世でたった一つの天国

アパートの公園を見れば
あの頃の私達が遊んでいる姿が今でもはっきり見えるよ

私やあいつが住んでいた部屋は今どうなってるかな
昔あそこに大きな栗の木が立っていたことを知っている人は
今あの場所にどれくらい残っているんだろう
大家さんが登記だか何だかを書き間違えた事が理由で
アパートの名前がたった一文字だけど、変わってしまった事を今も憶えている私
そんな私は
きっと世界で誰も知らないことを知っている貴重な人物に思えて仕方がない

好奇心が全ての原動力だった頃
歩いて十分足らずの通学路すら長い旅路に思えるほどだった
近所の家の庭、標識、ゴミ捨て場に捨てられた雑誌や人形
何を見ても恋心を抱いていたね

子供時代の愛しい感情を思い起こすうちに
幼い頃に誰もが感じる、心の闇に塗りつぶされ
雑音で頭の中が溢れ返る
平和な景色のはずなのに、私にしか関係ない事なのに
風景に亀裂が入っていく

その誰かを思い出すと頭が壊れそうになる
目の奥が熱くなって
鼻の奥がじんわりしてきて
喉の奥から何かを吐き出したくなるような
言葉にできぬ感覚を味わい
そして目から溢れ出る

迷惑さえかけなきゃそれでいい?いいえ、
後悔の涙を流す、それは
世界一自分勝手な心を持つ生物の取りうる世界一自分勝手な行為だと

もう一度会いたい人も嫌な奴も
思い出の中にしか居ない
人も場所もチャンスも一緒
もう会えないんだよ
その時に言いたい事やりたい事全部ぶちまけるしかなかったんだよ
これからもそうなら
もう誰にも
好きとも嫌いとも伝えられなくなってしまうよ

どうかこの景色の中に
いつまでもあの頃の私達だけが残っていますように
これから訪れるきっと好きになれる景色を思い返す時には
愛しい輝かしい自分だけが残っていますように
二度と来たくない場所で過ごす時には
誰にも見せられない醜い自分をしっかり捨てて後を立てますように
そして立つ鳥は後を濁していく

帰り道へ車を走らせ
行くときに見てきた景色を巻き戻していた
出来るなら私もあの頃にまで巻き戻したいけど
その誰かを思い出すと頭が壊れそうになる

私達が分かりあうために何が必要だったか、
その答えは
その場の感情に流され
思い出の中に取り残され
私では絶対行けないような場所で
他の誰かがいつかきっと見つけてくれる…そんな気がする


自由詩 shasou-斜想 Copyright Neutral 2012-07-16 13:12:38
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