映画『フォース・カインド』の都市伝説
だるま

(映画『フォース・カインド』の内容に一部触れています)


最初に警告、
というほど大げさなものじゃないですけど、
この話を聞くことによってあなたの身に何が起こっても、
僕は一切保障できないので、そこだけは了承しておいてください。

まあ聞くだけなら大丈夫だと思いますけど、
この話を人にするときは、ちょっと気をつけてくださいね。
そういうことを踏まえたうえで、聞きたい人だけ聞いてください。
じゃあ、始めます。


僕の大学時代の友人っていうのが、今、
アメリカで映画関係の仕事をしているんですけど、
これはその彼から聞いた話なんですね。

彼のやってる仕事っていうのは何かと言うと、
映画のCG、コンピュータグラフィックの仕事なんですよ。
とは言っても大した作品にはまだ関わってなくて、いわゆる低予算映画、
日本でいうVシネマみたいな感じのやつばっかりなんですけど。
まあ、そういう映画でね、爆発とか怪物とかの合成をやってるというわけなんです。
で、その彼がね、ある日、同僚のアメリカ人からこんなことを言われたんですね。
「なあ、『フォース・カインド』っていう映画知ってるか?」
って。

『フォース・カインド』ていう映画、知ってます?
ミラ・ジョヴォヴィッチが主演してる、けっこう有名な映画なんですけど。
タイトルの「フォース・カインド」ていうのは日本語に直すと「第四種接近遭遇」ていう意味で、
つまり宇宙人による誘拐、アブダクションをテーマにした映画なんですね。
この映画を配給したユニバーサル・ピクチャーズが、
この映画の内容に信憑性を持たせるためにウソのニュース記事を配信して謝罪した、
みたいな事件もありましたよね。

で、僕の友人は、
「ああ、観た観た。ブレアウィッチみたいなやつやんな」
って言ったんですけど、
そしたらその同僚のアメリカ人が、
「ここだけの話やけどな、あの映画には、実は凄い秘密があんねん。お前だけにそれ教えたるわ」
って言うんですね。
で、僕の友人もそういう秘密とか国家の陰謀とか好きなんで、
「おお、なになに?」
ってノリノリで聞いたんですね。
そしたらそのアメリカ人もニヤーッとしてね、声をひそめて、
「ええか、絶対誰にも言うなよ。言ったら消されんぞ」
って前置きして、その映画にまつわる「凄い秘密」というのを語り始めたんですね。

と、
ええと、ここでちょっと区切らせてもらいますけど、
こっからはちょっとややこしい話、というか、映画観てないと分からない話になると思います。
まあ、できるだけ映画観てない人にも内容分かるように話すつもりですけど、
それでも分からなかったら、とりあえず映画観てください。

で、話を戻しまして、
そのアメリカ人の同僚が何を言ったか、っていうことなんですけど、
まずね、さっきも言いましたけど、『フォース・カインド』ていう映画は、宇宙人の映画なんですよ。
アラスカにあるなんとかっていう小さな街で、宇宙人による誘拐が頻繁に起こってて、
それをミラ・ジョヴォヴィッチが演じる主人公が催眠術を使って調べる、みたいな映画なんです。

で、その同僚のアメリカ人が、僕の友人に、こう聞いたんですって。
「お前、あの映画観て、なんか変やな、って思うとこなかった?」
って。
それに対して友人は「いや、べつに」って軽く答えたんですけど、
そしたらそのアメリカ人が、
「あの映画な、宇宙人とかUFOにちょっとでも詳しい人間から見たら変なところいっぱいあんねん」
って言うんですよ。
だから僕の友人もちょっと興味出てきて、「マジで? 聞かして聞かして」ってなって、
詳しく聞いたんですって。

それで聞いてみたら、まずね、
「あの映画な、主人公の娘が失明してたやろ?」
って言うんですよ。
で、「ああ、言われてみればそんなんあったな。確かにあれ何やったんやろな」って、
そういえば脈絡のない変なシーンやったと思うわ、って言ったら、
「そうやろ!? おかしいと思うやろ?」
って、そのアメリカ人が、めっちゃ食いついたんですね。
あの映画の中には、主人公とその夫が夜寝てると、そこに真っ白な光が降りてきて、
そこから誰かがやってきて夫を刺し殺す、っていうワケ分からんシーンがあるんですけど、
その夜から、主人公の娘「だけ」が、何故か失明するんですよ。

それが、この映画ね、宇宙人のせいでエラいことになる犠牲者はたくさん出てくるんですけど、
失明したっていうような人間は、主人公の娘以外には誰もいないんです。
失明した原因もぜんぜん言わないし、失明がその後の伏線だったりもしない。
しかも、主人公には子供がもう一人いるんですけど、そっちの男の子は全く無事なんですね。
つまり、物語的に、娘が失明する必然性っていうのが全くのゼロなんですよ。
そのアメリカ人が言いたいのは、そういうことなんです。

で、僕の友人がそれに対して、
「いや、でもそんなん別に不思議でもなんでもないやん。映画的には確かにまずいけど」
って言ったら、そのアメリカ人は、
「でもな、UFOに遭遇して失明なんていうケースは俺が知る限りないねん。
 それに、この映画のおかしいのはここだけやなくて、まだまだ他にもあんねん」
て言うんで、じゃあとりあえず続き聞こか、ってことになったんですけど、
この映画ね、
事件当時のホンモノの記録映像、という体のフェイク映像を作中で流すんですけど、
その映像っていうのが、また変なんですって。そのアメリカ人に言わせると。

それがどこが変かって言うと、
その記録映像っていうのがね、まあいろいろあるんですけど、
UFOとか宇宙人が出てくる肝心な場面になると、きまって画像が乱れるんですね。
画面が歪んだりザーザーになったりして、ぜんぜん見えないんですよ。
それで、そのザーザーの映像の中で、
寝てる人間が宙に浮いて首を思いっきりネジり折られたり、
UFOに誘拐されたりするんですけど、
そのアメリカ人いわく、
超常現象によってビデオにノイズが入る場合っていうのは、一つしかないんですって。
ひょっとしたらもうピンときてる人もいるかもしれないですけど、そうなんです。

それは「悪魔」なんですよ。

電子機械に影響を及ぼす超常現象っていうのは、悪魔とか幽霊の類なんですね。
UFOを映したっていう映像で、画面が乱れたりしたのって見たことあります?
ほとんどないですよね。
だいたいのUFO映像って、鮮明に映ってると思います。
それに対して心霊系は、機械の故障とか誤作動ってしょっちゅうなんですよ。
で、僕の友人もそう言われて、
「ああ、確かにあの映画、エクソシストっぽいところあるよな」
って言ったんですね。
そしたらそのアメリカ人も、わが意を得たりとばかりに「そうやろ!」って。

実際、僕もその映画観ましたけど、ほんとにその記録映像の部分ていうのはね、
どっちかと言えば悪魔憑きの映画っぽいんですよ。
「正体不明の何かがやってきて夫を包丁でメッタ刺しにした」とか、
「寝てる男の体が宙に浮いて、その首が捻られて背骨が折れた」とか、
「夫が突然発狂して、家族を銃で全員射殺して自分も拳銃自殺した」とか、
宇宙人の手口とはちょっと違う気がしますよね。
最後のなんか『悪魔の棲む家』っぽいし。

あと、その他にアメリカ人が友人に言ってたのは、
映画の中に出てくる、主人公の肩にある火傷みたいな傷。
あれは映画の中では、
「宇宙人に何かの器具を刺し込まれた痕」っていうことになってるんですけど、
あれも、そのアメリカ人いわく、悪魔の印らしいんですよ。
宇宙人がチップを埋め込むのは頭の中が一般的で、
あんな肩とか腕とかに、しかも変な模様みたいにして埋め込まない、って。
この話もまあ、変な説得力があるといえばありますよね。

で、こっから話はちょっとスケール大きくなるんですけど、
この映画の中には、重要なファクターとしてシュメール文明っていうのが出てきて、
宇宙人が古代のシュメール語を話すんですね。
古代シュメール文明の遺跡には宇宙人やロケットを象った図なんかが残されていて、
もしかしたら宇宙人こそが神だったのではないか?みたいな、
まあそういう、わりとよく聞くような話をするんですけど、まあそれはいいんですよ。

問題なのは別のことで、
この映画、わりと重要なモチーフとして、フクロウっていうのが出てくるんですね。
それが何かっていうと、簡単に言えば、宇宙人に襲われたり誘拐された人たちがね、
その当時の記憶を催眠によって探ってみたら「フクロウが、フクロウが」って言うんですよ。
つまり、宇宙人イコールフクロウ、くらいの感じなんです。
もちろんフクロウが宇宙人なんじゃなくて、フクロウみたいな顔に見えた、っていうことですよ。
で、このフクロウなんですけど、
そのアメリカ人に言わせると、シュメールの神話においてフクロウというのは、
キリスト教で言うところの「人類最初の女性」である、悪魔リリスのことだと言うんです。
キリスト教では蛇に例えられるリリスですけど、それがシュメールでは、
フクロウの羽やカギヅメを持った夜の魔女で、フクロウを従えてた、とか。
まあ何が言いたいかって言うと、だからフクロウイコール悪魔や、ってことらしいんですけどね。

そこまで聞いて、僕の友人も流石にちょっとついていけなくなって、
「なあ、その話けっこう説得力あるけど、こじつけちゃうん?」
って言ったんですね。
そしたら、そのアメリカ人が、今度はこういう話をし始めたんです。

「映画にはな、完成する頃には最初の構想と内容が全く違ってしまうものがけっこうあんねん。
 その理由っていうのはもちろん色々やけどな。監督の気が変わったとか、予算の不足とか。
 でも、その中には、明らかにどっかからの圧力がかかった映画、ていうのもあんねん。マジで」

「俺が思うにな、この映画って実話ベースっていう設定の擬似ドキュメンタリー映画やろ?
 これたぶんやけど、最初はUFOをテーマにした映画やなくて、悪魔憑きを題材にした
 エクソシストものやったんちゃうかと思うねん。
 でも、バチカンとか、そっちのヤバい筋からの圧力がかかって、封印させられそうになった。
 だから映画制作者はテーマを変更せざるをえなくて、辻褄の合えへん映画になってしまったんやと思うねん」

これは僕も、言われてみれば、ちょっと分かる気がするんですね。
この映画の中で、ハッキリとUFOが映る場面っていうのは一箇所だけで、
それは主人公の家の見張りをしていた警官のパトカーについてた車載カメラの映像なんですけど、
そこにでてくるUFOの映像っていうのが、ものすごい投げやりなクオリティなんですよ。
他の場面はけっこう頑張って記録映像をつくってるのに、そこだけギャグみたいに浮いてるんです。
その他にはUFOに関する場面っていうのはなくて、強いて言えばエンドクレジットくらいで、
そこなんかもう、ほんとに取ってつけたみたいな感じで、UFOを目撃した人の証言を音声だけで流すんですね。
あれもちょっと違和感あると言えばありますよね。

そのアメリカ人は、これらの違和感について、
「この映画の違和感は、分かるヤツにだけ分かるように作られた、真実を告発するメッセージなんだ!」
って言ったらしいですけど。

あ、さっき悪魔の話をした時に言い忘れたことを、一つ思い出したんですけど、
この映画のクライマックスでメッセージが公開される謎の存在、いわゆる宇宙人なんですけどね。
その宇宙人、名前が「ズンアブー・イーター(ZIM A BU E TER)」ていうんですけど、
そのズンアブー・イーターが、やけに「自分は神だ」っていうことを強調するんですよ。
そのアメリカ人が言うには、この「神を騙る」っていうのも、悪魔の常套手段の一つらしいです。
人に取り付いたり、力を貸したりしてね、簡単な奇跡を起こして見せて、神のフリをするんだとか。
そうやって人間を誘惑したり利用したりするんだそうです。

そのアメリカ人の彼は、ズンアブー・イーターという単語のことを妙に気にしていて、
「ZIM A BU E TER は何かのアナグラム(アルファベットの並び替え)だと思う」
とか言って熱心に調べてたんですけど、それがある日突然会社に来なくなって、それっきり連絡取れなくなって音信不通やっていうんですよ。
宇宙人関連の話題ではけっこう、こういった突然の失踪って多いですよね。
黒い男たちとかメンインブラックの仕業や、とか言われて。
なんか冗談みたいですけど、彼もまた触れてはいけない真実に迫りすぎて、消された……とか、
そういうこともなんか、あながち嘘じゃなくて本当にあるのかも、と思ってしまったりもしますね。


で、この『フォース・カインド』にまつわる一連のエピソード、
僕も初耳だったし、ちょっと気になったんでインターネットで調べてみたんですけど、
見事に何もヒットしませんでした。
アメリカ人の彼なら、これも何者かの圧力による情報の隠蔽だと言うかもしれませんけど、
これが本当に情報の隠蔽なのか、それとも彼の個人的な妄想なのかは、ちょっと判断できないですね。


あと、これは余談、というか、友人経由でアメリカ人から聞いた話ではなくて、
その話を聞いた後に僕が『フォース・カインド』を観直してみて気がついたことなんですが、

映画の最後に、誘拐された主人公の娘の写真が三枚公開されますよね。
その中の二枚目と三枚目に、おかしなものが写ってるんですけど、わかるでしょうか。
二枚目はオレンジ色のオーブが大量に写っていて、
三枚目は娘の顔の辺りを横切るように光の筋が走ってますよね。
オーブは心霊写真の中でも比較的メジャーなものですが、
中でもオレンジ色のオーブというのは、その筋の専門家に言わせると、かなり危険なものらしいんですよ。
また、三枚目の光の筋ですが、これはちょうど娘のおでこの真ん中を通過していて、
そのおでこの中心が光り輝いてるように見えるんですね。
この場所っていうのは、いわゆる「第三の目」と呼ばれるものがある場所で、
もしかしたら、これは娘の謎の失明とも関係があるのかもしれないですね。
まあとにかく、なんでUFO映画の最後に心霊写真を写す必要があるのか? っていうのは謎ですよね。


最後に一応、もっかい忠告しておきますけど、
この話はあんまり他人に言わないほうがいいかもしれないですよ。
知ってはいけないことを知ってしまったせいで、ある日突然消される、ということも、
もしかしたらホントにあるかもしれないですからね。
とまあ、そういうことなんで、
もし、このアカウントがある日突然消えてたりしたら、その時は「ああ、消されたんだな」と思っといてください。


自由詩 映画『フォース・カインド』の都市伝説 Copyright だるま 2012-07-12 23:29:49
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