二重写し
だるま

これはデジタルカメラが普及する前、
今からもう15年くらい前のことなんですけど、

東京に住んでるある男性、仮にA君としますけど、
そのA君、彼は当時大学生だったんですけどね、彼に新しい彼女ができたんです。

A君はお父さんの影響で、小さい頃から趣味でカメラをやっていて、
休日はいつも車に乗ってドライブがてら、山とか海へ行って写真を撮るんですね。
それで彼、彼女ができて初めての週末、
せっかくやから今回はその彼女を撮ったろうと思ってね、彼女をドライブに誘ったんですよ。
彼女も二つ返事でOKして、家から少し離れた緑地公園に二人で行ったんですね。
それで一日パシャパシャと写真を撮って、帰りに写真屋によって現像をお願いして、
ふたりで「楽しみだねー」とか言ってたんですって。

で、それから数日経って、現像をお願いしてた写真が出来上がってきたんですけど、
その中にね、なんか一枚だけ、撮った覚えのない写真があるんですよ。
それでA君、
「あれ? こんなん撮ったっけ? 他の人の写真が紛れこんだんかな?」
って思ったんですけど、そうじゃないんですよ。
その写真には、A君の彼女がはっきりと写ってるんです。
だから、紛れもなく彼が撮影した写真に間違いないんですね。
でも、その写真っていうのがおかしくて、
何がおかしいかって言うとね、
その写真は、公園の池みたいなところを背景にして、写真の左側に彼女が立って、
残りの真ん中から右端までに池とか林とかが写ってるというものなんですけど、
その中央にね、でっかく鳥居が写ってるんですよ。

それがどうなってるかと言うと、
その写真に写ってたもともとの風景、A君の彼女と緑地の景色はそのまま写ってて、
それに重なるようにして、半透明のね、もう一つの風景が透けて写ってるていう感じなんですね。
フィルムを二枚重ねたみたいな感じで。
それを見てA君も彼女もびっくりしてね、「うわー、心霊写真撮ってもうたわー」って。
これはネガごと処分したほうがええんちゃうか、っていうことになったんですって。

それで、それから二年くらい経って、大学生だったA君も社会人になって、
そろそろ付き合ってる彼女との結婚を考える時期になったんですね。
で、彼女が大学を卒業したら結婚しようか、みたいな話を二人でしてて、
里帰りのついでに一度、田舎にその彼女を連れて行って紹介しようっていうことになったんです。
それで実家のほうに電話してみたら、両親も「ええよー」って二つ返事で言ってくれて、
じゃあお盆に彼女つれて帰るからー、っていうことでまとまったんですね。

それでお盆になって、言うてた通りにA君、彼女を連れて、
東京からはるばる関西の実家まで、車で帰ってきたんですね。
両親も「遠いところからようきたなー」って歓迎してくれて、
彼女も「お義父さんお義母さんお世話になります」って、すごい良いムードだったんです。
それで荷物下ろして一休みして、ワイワイご飯食べてね、
食後にまあ、お約束みたいな感じで、例によって古いアルバムが出てきたんですね。
「この子昔はこんなんだったんよー」「わー、かわいいー」みたいな感じで。
それでA君も気恥ずかしいから、「恥ずかしいから見んなやー」とか言いながら、
ちょっと離れて別のアルバムをパラパラ眺めてたんですけど、
その古いアルバムの中にね、一枚、気になる写真を見つけたんですよ。

その写真っていうのが、
両親が新婚旅行で行った伊勢神宮の時の写真なんですけど、
その中の一枚にね、なんか物凄く見覚えがあるんですね。
で、「これなんやったかなー」ってA君考えてたんですけど、そこでハッと気がついたんですね。
その写真、二年前にA君が撮った、あの彼女の写真に写ってた鳥居、そっくりそのままなんですよ。
その鳥居っていうのは、伊勢神宮の有名な大鳥居なんですけど、
それが同じ鳥居っていうだけじゃなくて、その、写真に写ってる構図とか、アングルっていうんですか?
それまで、ほっとんど同じなんです。

で、A君びっくりしてしまって、そのことを両親と彼女に話したら、
両親は何のことか分からないからポカーンとしてるんですね。彼女はびっくりしてるんですけど。
それでA君、二年前のことを両親に詳しく話したんですけど、両親ドン引きですよ。
でもまあ、二人が出会って初めて撮った写真に、両親の新婚旅行の風景が写りこむっていうのは、
これは考えようによっては吉兆ちゃうか、言うてね。
最終的には「ええ相手に巡り会うてよかったな」ていう結論になったんですね。

でも、この話には続きがあって、
この話を聞いたときね、僕、彼に「それはさすがにこじつけすぎちゃうか」って言うたんですよ。
「確かに鳥居が写ったのは不思議やけど、それだけで両親の新婚旅行と結びつけるのはどうなん」って。
だいたいね、伊勢で大鳥居を撮った写真なんてね、どれも構図なんて大差ないでしょ。
たいてい鳥居を真ん中に大写しにして、正面から撮るんですから。
だから僕、彼にハッキリそう言うんたんですよ。
そしたらね、彼、「それがな、せやないねん」って言うんですね。

で、話を聞いてみると、
A君と両親がその話をした、その次の日の夜に、
彼の父親が彼のところにやってきて、こう言うたんですって。
「あんな、ちょっと話したいことあんねん。ええか」
って。
で、A君が「何?」って言ったら、家の物置みたいなとこに連れて行かれたんですね。
そしたら物置の中が引っ繰り返されてて、「親父これどないしたん」って聞いたら、
小さいカンカンを指さしてね、「これ見せよう思て探しててん」って。
そのカンカンを開けてみると、中に一本のフィルムケースが入ってて、
「これ、昨日言ってたやつや。伊勢の」って言うんですよ。
で、A君が「うん、それでこれがなんなん」って聞いたら、父親がね、
「昨日な、おまえ伊勢神宮の大鳥居の写真の話してたやろ。
 昨日は黙ってたけど、大鳥居の写真な、もう一枚あんねん」
って言い出して、A君が、
「えっ、それどういうこと」
って言ったら、
「たぶん見たほうが早いわ。このネガお前にやるから、ちゃんとしたところで現像してもらえ」
って。

それでA君、なんか釈然としないまま、次の日の朝に車で彼女といっしょに東京へ帰ってね、
彼女を送ってから、ついでに近所の写真屋にフィルムを持ち込んだんですよ。
「ちょっと古いんですけど大丈夫ですか?」って言ったら、店の人、
「色とかは抜けてるかもしれませんけど、現像自体はできると思いますよ」って。
で、それからまた何日か経って、A君その写真屋に写真を受け取りにいったんですね。
そしたらそこの店主がね、
「すいません、一枚だけうまく現像できなかった写真がありまして」って言うんですよ。
それでA君ピンと来てね、
「それ、もしかして鳥居のやつじゃないですか?」
って聞いたんです。
そしたら写真屋の店主も、A君の言わんとすることが分かったみたいで「そうです」って。
それで、現像した写真をもう処分したかって聞いたら「まだしてません」って言うんで、
頼み込んで無理やり見せてもらったんですね。
そしたらね、その写真っていうのが、もう、見事なまでの心霊写真なんですよ。

セピア色の風景に伊勢の大鳥居が写っていて、その両側には木立が写ってる。
その、左半分にね、半透明の女の、腰から上くらいがボンヤリ写ってるんですよ。
ちょうど木の、葉っぱが茂ってるあたりと同化してて分かりにくいんですけど、
顔の表情とか服装とかまで分かるくらいにはしっかり写ってるんですね。
その写真を見て、A君、ほんとにビックリしたんですよ。
何でかって、そこに写ってる女っていうのがね、どう見ても彼の彼女なんです。
これ、どう考えてもありえない話なんですけど、
彼が二年前に緑地公園の池で彼女を撮影したときの構図そのままで、
両親の新婚旅行のときの写真に、彼女が写りこんでるんですね。
その写真が撮られた時って、A君も彼女も、まだこの世に存在すらしてないんですよ。
それやのに、こんな不思議な話があるねんなーって。
よほど強い縁か、因縁みたいなものがあったんでしょうかね。

その写真、僕も見せてもらいましたけど、確かにA君の彼女に似てましたね。
「公園で撮ったほうの写真が残ってないのがホンマに残念や」って彼は言ってましたけど、
僕もそっちは見てないんで、本当にそう思います。


自由詩 二重写し Copyright だるま 2012-06-30 15:01:13
notebook Home 戻る  過去 未来