頭蓋と埋葬穴・四角錘の猟犬群
高濱



安洋燈の光の暈の中心に聖女の頭部があり
斬首刑の頭蓋骨を抱えた首なしの聖人達の
行列が縫製職人に首を挿げ、既製服から
四肢を伸ばし河を漂っている。
狂った男がマネキンを横抱きに抱え、防腐処置の水銀に
放り込むと忽ち骸骨に戻る筆記者の手首が、
まるで葦の様に水中に靡いている。


嘲笑の時限式装置の自然停止が羽根を引き摺り
飛行する羽蟻の餌食になった黒揚羽を
葬列に磔にされた翼を拡げるイカロスに
擬えている、まるで屍骸の様に白い腕が
額縁の裡を撫で回す、林檎の実が描かれてあった
黒い切り抜きの空洞には牡蠣の殻が置かれている。


室内装飾に蹲る首の無い天使は、
外部への裂目である。
衣裳箪笥の司祭たちが瞑想する、
比類ない愛の為に両目を潰した善人が、
緑の鈴蘭を化粧棚に振り撒く、
雑種の犬が吠えている、
純血種の猟犬が地底を駆け巡り
一羽の巨大なモアを持ち帰る。


眼球投射装置を備えた男性が
壁に様々な昆虫をスライドさせ、
活火山性の噴煙や、大砲の発射、
塹壕兵の半分に吹飛んだ顔、
青緑色の鸚哥の心臓などを
無関係に配列してゆく。
火花が散る車輪を停車させ、
馬車より十四世紀の骸骨が降りてくる。



自由詩 頭蓋と埋葬穴・四角錘の猟犬群 Copyright 高濱 2012-06-30 03:12:35
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