夏の中で
yamadahifumi


   夏の中で

夏がやってくる
世界がやってくるように
また一つの夏が
僕達の季節を過ぎていく

僕は幾つかの夏を知っている
剣道部の頃の夏や
大学生の頃の夏や
ニートの時の夏
でもそのどの夏も
この季節の夏ほど濃くも強くなった

僕の中の夏の思い出は
空しい失恋の思い出や
仕事先で上司に怒られたという思い出や
子供の頃無理矢理親に叱られて
学業を強制されたという思い出に満ちている

自分がとりわけ不幸だったとは思わないが
全体そのものが不幸であり
平和と幸福と名付けられた市民的不幸の真っ只中に僕らは生まれたのであり
その一端の飛沫を浴びたのだという実感はある

僕の中で本当の夏の記憶は
あの川面の光や
少女のワンピースの翻りや
僕自身の入道雲の中でのまどろみ
ということにはならないのだろうか?

僕は今や大人になって
もはや文句を言えない立場になっている
職場の人達は僕が詩を書いているのだと知れば おそらく
盛大に笑い出すだろう
それでも彼らもまた仕事が終わると おそらくは
悲しげな瞳をしてテレビでもぼうっと眺めているに違いない
と、そこに僕の詩が入る余地があるのだ

僕の中で繰り返す夏の思い出は
世界の動向に微動だにしない wwwという奴だ
それでも僕はまた一夏を生き
そして少しは成長するだろう

そして世界は平たく終焉を迎える前に
ほんの少しだけ、僕に微笑みかけてくれる
その時だけ、僕の中の夏は光り出し
一瞬間だけ世界を覆う

その時、君は入道雲を見つめて
そこに変わらない僕の姿を確認するだろう
そして君は きっと僕が夢の中で見た
純白のワンピースを着ているのだろう


自由詩 夏の中で Copyright yamadahifumi 2012-06-29 14:57:59
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