蚊
葛西曹達
小さな羽根で
飛んでゆける範囲の
小さな幸せしか知らぬ
円満な人生の理想
私はその設計図を
この世に生を受ける代わりに
安値で売り渡した
波荒む大海に
耐えられるほど強くない
むしろ脆い両手両足
麻痺しているんだ
煙を焚かれ
締め出され
拒絶されたために
ひどく渇いた喉に
ひどく乾いた風が吹き付け
声を奪う
無慈悲に声を奪う
存在を許さないように
確かめさせないために
だから僕は飛びながら
耳障りな音を奏で
存在を知らしめているんだよ
気づかれたらきっと
パチンと弾かれる
その時まで
ふわふわしつづける
風の流れが変わろうと
ふわふわしつづけるのだ