パン屋の朝は早い。太陽が昇る前には起床。
パンを作る工程は秘密だ。
私がパン作りを人に知られないのには理由がある。
秘密にしないと魔法が上手くかからないのだ。
そう。私は魔法使い。パンに魔法をかける魔法使いなのだ。


うちのパン屋の人気は凄まじい。
開店３分で売り切れる。
焼きたてのパンは美味しい。
美味しそうなパンはだいたい開店前に嫁が喰ってしまう。
たくさん食べるのに嫁はナイスバディ。
うちのパンは食べても食べても太らないパンなのだ。


よく売れているパンBEST３を紹介しよう。バストアップ効果あり! メロンパン。
くびれるウエスト！ ふんわりプリンパン。
愛されスラリ美脚に！　明太子フランス。
　どれも嫁のリクエストに応えて作りだしたパンだ。
ここだけの話、俺は米飯派！しかも玄米


じつは深夜に少しだけ店を開けることがあるんだ。
嫁に見つかるとマズいパンを売るんだ。いや、パンは美味しいんだ。
美味しいけどマズいパンを売るんだ。ややこしいな。聴かなかったことにしてくれ。
欲しいパンがあったらなんでも作るぜ。法外な値段だけどな。


見上げるとソラクジラが南から近づいてきている。
ソラクジラパンの完成を急がなければ。
同時にソラフグパンの制作も考えていたのだが、やはりフグには毒がありそうな気がして、作るのをやめ

た。
さて、また午後に向けてパンを焼くか。


うちの店『キキのパン屋さん』は北区中央駅前で本日も開店中。闇の商売もしてるので目立たないお店で

す。魔法のかかってないパンも売ってます。それでも売れます。美味しいから！
宅配もやっています。魔法使い見習いのオンナノコがホウキに乗って配達いたします。


今朝、嫁が遠方の歌会へ向かった。短歌が上手くなる短歌パンを持たせてやった。
が、間違えて俳句パンを持たせてしまった。こんな日があっても良いだろう。
嫁が短歌を詠みはじめたのも『美人三姉妹』シリーズの影響。
『美人三姉妹』人気に便乗したパンでも作ってみようかなぁ。


「ノン！ 至急、汁輪へGO！」。魔女っ子ノンちゃんの出動だ。
魔法使い見習いのノンは、まだホウキに乗る魔法しか使えない。
豊胸メロンパンを買った女子高生の父が、魔法パンと知らずに食べてしまったらしい。
ノンは貧乳クロワッサンを袋に入れて、店を出るとホウキに跨り空高く舞い上がった。


魔法使い見習いのノンは、まだホウキに乗る魔法しか使えない。
しかしホウキの乗り回しには自信があった。
ノンは同世代最速のライダーであると自負している。
汁輪、環状線マルケーで行くには時間がかかる。
ホウキなら直線移動でひとっ飛びだ。安全第一。


最近「目覚めの良くなるパン」ことコーヒーロールがよく売れている。たくさん作って欲しいという要望

も多い。朝、起きられない人も増えているのかもしれないが、どうやら"眠気覚まし"のためにコーヒーロ

ールを食べているらしい。人間には睡眠が必要。眠ってくださいね


『美人三姉妹』人気に便乗したパンを作ろうかと思っていたら三姉妹制作サイドから取材のオファーが。

　三姉妹をホウキに乗せて飛ばすシーンが撮りたいらしい。　ノンにスタントマン的な役で空を飛んで欲

しいみたいなんだけど...


「食べたら、空に浮けるパンを作りましょうか？」「そ、そんなの作れるんですか？！」
提案してみたら、すごく驚いていた。しまった、仕事が増えてしまう・・・。


「女優さんに直接会わないと作れないですけどねー。」　遠まわしに断るつもりだった。「では、います

ぐにでも京香にこちらへ来るように伝えておきますね。」　えっ？！京香とは長女役の美人女優さんだ。

嫁もノンも大ファン。ふたりとも喜びパニックだぞ


「店長！京香さんが来るってホントですか？」ノンは配達から帰ってくるなりハイテンションで聞いてき

た。「ホント。１５時には来る。」「えー、もう来るじゃないですか！　あぁ、宅配の電話が来たらどう

しよー」「電話線抜いとくか」「それ良いですね！」「冗談だ。」


約束通りの時間に京香は店のドアを開けた。テレビで見るより美人オーラがないな。ちょっとガッカリ。

嫁は京香のライバル女優であるかのような振る舞いで握手を求めてた。ノンは緊張でガッチガチ。宅配の

注文が入ったら断ろう。いや、飛ぶとこ見せようか


「はじめまして、よろしくお願いします。」京香が挨拶をすると一気に彼女の全身からオーラが出た。
オーラのオンオフは切り替え可能らしい。　京香にシナモンロールをひとくち食べてもらった。「あら、

カラダが軽くなったわ！」京香のかかとが浮いた。


「そのうち浮きっぱなしになれて四方八方に動けますよ。ノン、ホウキの乗り方教えてあげて。」
「えぇっ？！わたしが教えるんですかー？」
「嫌なら、俺が教える」
「わたしに教えさせてください！」　２人乗り用ホウキを持ってノンと京香は店を出た