クレーム
マクベス
コンビニの仕事の至福の時間は廃棄デザートを漁る瞬間にある。早朝出勤の寝ぼけ眼から仕事に入る間の甘味の大人食いは長い一日の始まりに相応しい。
◇
「お客様、ちなみにどれくらいの時間煮込まれましたか?」
クレーム内容:買ったキャベツが堅い
「そうね、・・・10分くらいかしら」
3分、と私は受話器の向こうでメモに書き込んだ。
「なるほど。では、もう10分ほど煮込んでみてください。お客様のお話ですと前回使ったキャベツは春キャベツのようです。春キャベツでお作りになられたお味噌と全く同じ柔らかさとまではいきませんが長く煮込むことで甘味も柔らかさも申し分なく仕上がるはずです。もしそれでも固いようでしたら購入されたスーパーに相談されてみるのがよろしいかと思われます。」
◇
「これだけ商品名が書いてないんです。代わりに外税としか書かれてないんです。これは・・・」
クレーム内容:半年前のレシート
「半年前に何を買ったのか教えてほしいのですが。あの、お弁当も一緒に買っているようなので、もしかしたら温めてもらった時の追加料金なのかしら・・・」
<嫌がらせ、威圧団体>を横線2本を引いて消し、新たに<混乱、一般市民>とメモに書き込んだ。
「なるほど。おそらく値下げした商品だと思われます。バーコードを通さず手打ちで値段を登録するため商品名は表示されません。お弁当の温めですがご安心ください。こちらはサービスなのでお金が別に発生することはございません。」
日々複雑化する社会に誰もが途方に暮れているように感じられる。減らないデザートの廃棄額のように。