バタ足
nonya
水飛沫だけは一人前の
まるで推進力がないバタ足で
取り付く島を探し回る毎日
学校の水泳授業を
見学してばかりいたツケが
今頃回ってくるとは思わなかった
後輩の回遊魚達には
軽々と先を越されて
先輩の深海魚連には
さりげなく足を掴まれて
息継ぎのつもりで立ち寄った
小島の偽人魚に溺れる始末
この泳ぎ下手はもはや
致命的なのかもしれない
ドルフィンキック
ゆるぎない上半身に
人好きのする笑顔を固定して
慇懃無礼に揃えた両足を
これ見よがしにくねらせて
しょっぱ過ぎる波の下を
悠々と潜っていくような
そんなドルフィンキックに
恋焦がれた時もあったのだが
バタ足
思うように進めないけれど
ちっとも素敵じゃないけれど
今はバタ足が嫌いではない
なんて
嘘だ
それは諦めだ
それは負け惜しみだ
それは慰めだ
それは自分らしさの
情けないアピールでしかない
毎日が大海原なのだから
不様な水飛沫を笑われようと
不器用な息継ぎを疎まれようと
ジタバタと浮かび続けるしかない
このバタ足が
たとえ幸せでも
たとえ不幸せでも