エスケープ失敗
ブルーベリー

陳列棚を指先で示したものの
どれだったか見当はつかなくて
店員はあの、と困ったように上目遣いした

白い煙なのに何で紫煙だなんて言うのかしら

あなたは透明になっていく

結局レジ袋には自分の分のミネラルウォーターだけが
たぷん、と揺れて 揺らして

会いに行く

白い壁 天使が顔馴染みになった私に
満面の笑みを向ける
サンプル写真のような眩しさで目を灼き
喉を引き攣らせるのも
もしかしたら役割のひとつなのかもしれない

階段を上ったあなたの部屋

透明な壁に笑みのまま立ち尽くす
エスケープを誘ったのはどちらからだったろうか
わからなくなるような
曖昧な笑みで
あなたは恭しく手を差し出し
私は境界線を越える

もう思い出せなくなった

紫煙がすっかり抜け切った身体
あなたの微かな腐乱と汗のほんとうに
違和感が拭えないのに

もう思い出せなくなった

だから私は学習すべく
あなたの首元に顔を埋める
漂白されていく欠片を残すべく
違和感だらけになる予感に

もう戻れない


エスケープのお供を見つけられない私を
あなたは笑いながら咎める
黄ばんだ歯だけが微かにしみて
私は目を伏せた

守りたかったわけじゃない
言えば
宥めるように撫でられた

どこまでも透明な声は
見透かしてわらっていた

…、白い煙なのに何で紫煙だなんて言うのかしら、ね

あなたはもういちど頭を撫でた
リセットの合図だった

あなたは透明になってしまうの


自由詩 エスケープ失敗 Copyright ブルーベリー 2012-06-16 02:00:57
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