夜、或いは独りという事実。
永乃ゆち



水の抜けたプールサイドで話してた言葉は夜に溶かしてしまえ

涙さえ夜の前では無機質で恋してたって今更気付く

友達のはずだった君 空メール 無意味に夜を蹴飛ばしていた

さよならを言うのは私のはずだった 初めて故郷の夜に焦がれた

月よ今照らさないで 虫よ今声を聞かせて 私泣きたいの

あの夜は君に似ているテノールの少しかすれた声に抱かれた

文法も方程式も無視してたあの夜君は鳥になったね

母さんのハイヒールの音響いてた夜は私に優しくなかった

飛び立った鳥の行方を捜してる 夜に焦がれて夜に怯えて

いつだって夜は味方じゃなかったし別れの電話も覚悟してたし

アイドルと政治家が並ぶ深夜枠誰も嘘つき誰も正直

真夜中のテレショップでは腹筋の割れるマシンが誘惑してる

忍び足教えてくれた年上の男(ひと)を待っては五度目の流星

風船に針刺すような優しさを残してくれた夜は真緑

描きかけのカンバスの中の小宇宙夜明け前には星を飲み込む


短歌 夜、或いは独りという事実。 Copyright 永乃ゆち 2012-06-15 04:43:25
notebook Home 戻る