「夜があまりに長いので」
ベンジャミン

夜があまりに長いので
ひとつふたつと数えたのは
ヒツジが柵をとびこえる
ひとみを閉じた景色でなく
あれはそう
誰にでもあるという
こころの風景のいろいろを
喜怒哀楽のふるいにかけて
かなうなら
喜びや楽しさだけを抽出して
どれだけ軽やかに
自分自身が柵をこえられるよう
そんなふうに願ったのですが
夜はあまりに長いので
深いねむりにつくまえに
どうしてもつまづいてしまうのです
六月ですから
夜を重ねるように月あかりさえ
届かないのは光ではなくて
過去という時間に流されたものたち
その多くが悲しみなどと呼ばれて
まるで要らないもののように
置き去りにされてしまうのを
それこそが悲しいと思います
なぜなら
あれはそう
たしかに悲しいと名づけたものの
ほんの一部に静かに咲いている
一面の紫陽花の中を
月あかりさえ届かないこの場所で
ただひとみを閉じるだけで
思いおこせるのですから
夜はあまりに長いので
なのにその紫陽花の中を
いつまでも歩いていたいとさえ思うのです

夜があまりに長いので
その夜が何度となくおとずれても
いつまでも歩いていたいと願うのです
それがたとえ悲しいと
自分のこころがわかっていても
あれはそう
けして枯れることなく
ずっとずっと咲きつづけてくれるのですから
少しずつ花色が変わってしまうとしても

長い夜がくるたびに
いつも咲いたままで待ってくれているのですから
 


自由詩 「夜があまりに長いので」 Copyright ベンジャミン 2012-06-10 00:54:02
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