眠れぬ夜に、裏庭で
まーつん

苦悩の女神が
僕の手を引いて
眠れぬ夜に連れ出した

花は閉じ 草は項垂れ
月は雲の毛布に潜り込んで 高い鼾をかいていた

ブナ林を背にして 裏庭に立つと
女神は両腕を広げ 僕はその中に顔を埋めた

焦げ臭い肌と 甘辛い汗のにおい
止める間もなくこの腕が 夜着の襟元を引き裂いていた
草の絨毯に押し付けた 彼女の身体に驚いて 一匹の蟻が身悶えし 白い背中をやさしく噛んだ
 
闇の褥に鳴くコオロギが 徐々に荒くなる息遣いに
リーリーと 気のない調子で伴奏した

繰り返される嬌声に 目を覚まされた満月が
雲の天井桟敷から 階下の寝屋を覗きこむ
熱さで 溶けてしまわぬようにと
ブナ林の送り込む風が 2人の身体を冷ましてくれた
そうして夜通し睦み合い 朝焼けの中にまどろんで 夢なき眠りに落ちたあと

真昼の熱気に頬を叩かれ 目を覚ました
いがらっぽい 喉の苦味に耐えながら 半身を起こして見渡すと

僕の隣に横たわっていたのは 一体の人形
子供の頃に捨てたはずの ぼろぼろに縫い目のほつれた

一体の人形だった


自由詩 眠れぬ夜に、裏庭で Copyright まーつん 2012-06-08 00:20:30
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