私は生きてるのだから
永乃ゆち

化粧をすると何だか息苦しくてすぐに落とした
(でもあの人と逢う時にはして行くんだ)

マニキュアを塗ると手の仕草が女らしくなる
(でも面倒だから塗らないんだ)

女子がもっともお洒落をするのは同性の友達と逢う時
(張り合って見比べて安心したいんだ)

私は化粧もしない
マニキュアも塗らない
お洒落に気を遣ったりもしない


だってあの人がいないんですもの


喪に服してる訳じゃないけど
総ての事が質素になった


あの人はマンションの10階から飛び降りた

原因は結局分からなかった


あの人は即死だったという

良かったね、苦しまずに逝けて

そう思うしかないじゃないか

滅多にしない化粧をしてあの人に会いに行く日の事だった



私二度と化粧なんてしない
私二度と恋なんてしない


お洒落をする気分になんてなれない


でも本当は分かってる
いつかは起き上がれる

あの人は風化していく
私は新しく恋をする

過去は思いがけない速さで過ぎてゆく

私は毎日笑って暮らし、時々あの人の事を思い出して
苦しい気持ちになるんだろう

そうでなきゃやってられない
そうでなきゃいけないんだ

私は生きているのだから


自由詩 私は生きてるのだから Copyright 永乃ゆち 2012-06-04 04:18:40
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