転位
瀬崎 虎彦

くちびるを離れて瞬時に死ぬ声
清浄すぎる空気の中で窒息する
織り成す前に解かれかさなる前に崩れ
かつていた場所の記憶も透明にすぎる

右手にレモン 左手にナイフ ベッドの輪郭は白く
夜は火の粉を上げて走る馬 星と星は奔流にのまれ
いとよわく いとかなしき 構造の玩具に
導かれて歩く(あるく)長い夢を見ていた

雨を待っていたのではなかった
冬を待っていたのではなかった
砂の上に風紋をのこして消える

鉄の針で貫かれて一本の管となり
ゆるやかに腐敗していく季節を
水面から誰かが覗いていた気がしたけど


自由詩 転位 Copyright 瀬崎 虎彦 2012-05-27 00:17:03
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