ふたつの出会い
八男(はちおとこ)

学生時代、福祉系の大学に行っていた友人に誘われて、藤の根作業所(現いぶきやま・当時建物は旧山東町に在しました)にボランティアに行きました。昔、私の母親がしていた内職のような単純作業だったと思いますが、まだ若く集中力が足りなかった私は丸一日だった予定を切り上げ、友人を置き去りにして午前中で逃げ出しました。その昼休みに当時の所長さんとキャッチボールをしました。緩やかなボールの軌道を眺めながら将来どうするんだろうといった話をしていたのを覚えています。所長さんからの一球一球から、何か予感めいたものが蓄積されていき、あの時間で一つの人生が決まっていった気がします。あのキャッチボールがなかったら、今、私はこの仕事をしていなかっただろうと思います。
十年程前、末期がんを患っていたおじさんと知り合いました。おじさんは昔、福祉の大学を卒業されていて、最期くらい勉強したことをやってみたいと、保育園で学童保育の仕事をされていました。このおじさんと一緒に時間を重ねてみたいと思い、しばらく通っていました。春に知り合って夏には他界されてしまいまいたが、なんでもすぐに実行される方で、ある日は突然思いついて「ここにばぁーっとぎょうさん咲いたらすごいぞ」と、保育園のすぐ目の前の土手一面にひまわりの種を植えられました。亡くなられて間もなくのこと、夏の夜にそこを訪ねると、月明かりに照らされて見事にたくさんのひまわりが花を咲かせていました。その光景から、そうかあ!夢をかなえるというのはこういうことなのかあ!と思い知らされました。おじさんが毎日夢に向かって頑張っている姿に、学童保育に通う小学生の表情が日増しに良くなっていったのを思い出します。いつか、あのおじさんみたいに、あそしあの中庭らへんにこっそり夢をかなえられる支援員になりたいと思います。


散文(批評随筆小説等) ふたつの出会い Copyright 八男(はちおとこ) 2012-05-26 11:25:36
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