傘のない街
千波 一也


街は
かわらず
急ぎ足だから
にわか雨にも動じない

チラ、と
暗く続いた空をみて
街は
かわらず
明かりを灯しはじめる

明かりは
誰のためか、と
問われたならば
しばしの思案のあとで
誰もがさびしく
答えるだろう


バス停に濡れる
少女のための
傘は
どこにも
見つからない

待ち人のない
老婆のための
傘は
どこにも
見つからない


街を
わたる人たちの
行き先などを
街は
いちいち
気に掛けない

向かう人にも
帰る人にも
街は
街であるほかの
すべを持たない


夢に
たじろぐ少年を
たすける傘は
どこにも
ない

荷を
確かめる老爺の肩に
寄り添う傘は
どこにも
ない


街は
かわらず
暗黙の一方通行だから
にわか雨にも
動じない

流れる方向が乱れたら
街の
弱みが
さらされるから
街は
つとめて
干渉しない


軋む隙間を
あちらこちらに
許すしかなくても
街は
なにも
持たずに
済むように
街ゆく人の一つ一つに
なにか
易しからぬ
言葉を放ち続ける








自由詩 傘のない街 Copyright 千波 一也 2012-05-13 22:10:02縦
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