破天
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頭上を飛び回る一匹の蝿

よく目を凝らすと、その蝿は
小さな俺みたいな姿をしていた

小さな俺みたいな蝿は
耳元に近付くと
自分こそは天球の陥没により
俺という球体の内部に産み落とされた
乖離性神格なのだと
ヴィブラートの効いた声で囁いた

だが、俺の髪に
唾液塗れの足で触れ
頭部に空いた二つの穴から
頻繁に出入りを繰り返す
煩わしい神格とやらよ

お前が何であっても良い

抽象的に追い詰めて
飽きた頃には
鋏でその小さな羽を切り刻んで
頭から思い切り押し潰すとしよう

お前は俺に似ているが
所詮は蝿だからな
俺こそが四肢の主だ


ああ、それにしても
女で在る事が
貝に喰らいついてくる
海星どものように酷く忌々しい

もっと正確に言うならば
芳醇で、頑丈で
本末転倒な肉体と
沸騰して、破裂して
流れ出す精神と
それに付随する悪質な粘膜、
抽象的な熱病、
醗酵し腐敗する
破天荒な似非修道院

全てが厳然と
頑として憂鬱だ

鈍く輝くこの俺を
誰かが裁きにかけようものならば
精神を深く痙攣させ
感情膜を突き破り
絶対無に向かう方を
俺は迷わず選ぶ

妹の脊髄は悲しんで
空気の抜けたチューブのように
怠惰に井戸の周りを
何度も何度も回り続けるだろう

だが、それは死ではない


バーナード33に向かうまでの
1500年の短い間に散々、後悔したよ
しかし両膝は失ったが
突き刺さった毒矢は
醜い蛇に姿を変え
何処かへ逃げ失せた


喋りが過ぎたな
腹も減り過ぎた

煮立った山羊頭の黒い色のスープに
拾い集めた具材を一つずつ足していこう

蹄、角、生殖器、
災難、悲愴、憤怒、
だがこれらは
どうやら贋物だな


おい、蝿よ
大きな水瓶の中には
突起物が三つある
擬態俺少女軟体生物
こいつこそが
お前の本体なんだろう?

裂かれた身に震える喉
剥がれ落ちた鱗は
気泡の数より多い

残った鱗も全て剥がしたら
お前は桃色のカンヴァス
熱を帯びたクレヴァス

全身の感覚が通常の千億倍になるぜ
苦痛に伴う快楽もだ

反芻される快感に
粕になるまで体液を搾り取られ
お前は拡散するんだ
お前の肋骨は喜んで泣き喚くんだ
お前は砂漠の砂で
回教徒の腫れた肝臓を丸ごと飲み込み
そして因数の上を転げ回るんだ


最後に極限まで膨張し
破裂したら、夢中で
蜜の中で果てるんだ

そしたら
俺が潰してやる
俺が頭から
潰してやろう

俺が潰すんだ
俺が潰す



俺が?




でもやがて
お前は性懲りもなく
俺の姿になり

曖昧な輪郭の上を
もう一度
飛び回ろうとするんだろうな


自由詩 破天 Copyright в+в 2012-05-02 08:58:55
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