セーフモード
汐見ハル

横断歩道のストライプを
白のとこだけ踏みながら
ようじんぶかく歩いて
見上げた歩行者用信号の青が
点滅をはじめて
スクランブル交差点が早送りになって
ひとりだけスローモーションの動きになりながら
わたしはおまじないをする

赤になりきるまえに
向こうの歩道を踏むことできたら

わざと下を向くので
マフラーを巻きなおさなくてはならなくなったけど
いそがないそぶりに集中しなければならない

試写会のチケットがあたります
焼きたてクロワッサンが並ばずに買えます
楽で割りのよいアルバイトが見つかります
やさしい恋はついにわたしのものになります
ひだまりいろの瞳の子犬にじゃれつかれます
たまごがうまく割れます
きょうはいいことがあります
だいじょうぶです

ほら

一拍
一拍だけ足をはやめる
そして
つまさきの着地に一拍だけおくれて
赤が 

セーフ、だ

地震も戦争もまだ私を脅かさない
不治の病はまだ私を狙ったりしない
わたしも、わたしの愛する人のすべてが
あらゆる災いからまぬがれることでしょう
今日もわたしは甘やかされて幸福なひとり娘で

だいじょうぶ
まだおきざりにされない

心臓の輪郭をぎゅっとたしかめながら
わたしはわたしの世界のとりあえずの予定調和を
かろうじてまだ信じようとすることができてる


自由詩 セーフモード Copyright 汐見ハル 2004-12-05 23:07:15
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