すいかにまつわるエトセトラ
そらの珊瑚

冬にすいかを食べたい
もうすいかしか食べられそうにないと言って
あなたを困らせた
今思うと
ロシアの童話にあるような
わがまま女じゃないか、あたし
あなたは
愛だというが
一抹の負い目があるのも事実で
(私を孕ませ、その結果つわりがあることへの)
仕事帰りに
デパートに日参する羽目となった


つわりの実態は
経験したものでないとわからない
あれは食べられない辛さではなく
わずかに
食べられそうなものへの
鬼のような執着なのだ
それしか
だめなのだ
理由はない
恋、である

つわりの妊婦は
いつ果てるかもわからない恋をしている
ものすごく辛い恋をしている
恋なんて
人を幸せにはしてくれない代物だとわかっていても
してしまうのが、恋

つわりは病気じゃないと
おばあちゃんに言われて
辛かったのよ
と母が言う
あの時ほど
母にシンパシーを感じたことはない
きっと殺意に似たものを
感じたに違いない
日常に潜む殺意のどれほどが実行されるのか知らないが
(愛、自由、平等の図式が崩れた時に
 事件は起こるのではないかというのは
 あたしの個人的見解)
命をふたつ抱えた妊婦が
聖母マリアのように慈悲深いとは
男の幻想である

今年もハウスものの
すいかが出回る季節になった
百果繚乱、わがまま女の童話は日本でも続く

あの時に
食べたすいかほど
美味しいすいかには
これから先も
巡り合えそうにないけど
それでいい
もう
恋なんてしないと
決めたからである




自由詩 すいかにまつわるエトセトラ Copyright そらの珊瑚 2012-04-29 08:32:21
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