春の名残
あ。

ベランダにするりと入り込んできた花びらは
物干し竿の隅っこにぺったりとくっついたままで
当の木はもう半分以上が緑色なのに
無機質なアルミをほんのりと密やかに
しっとりとささやかに染め上げている


曖昧だ
大気が、空が、温度が、木々が、花々が
わたしが、友が、両親が、愛するものが
見えないのにこそばゆくさせる花粉みたいに
曖昧で出来ている、季節


全部をかき混ぜれば
少しは形作れるのだろうか
切るようにさくさく、さくさくと
最後に、そう
忘れられてしまった花びらなど入れて


ひとつ、強めの風が吹いた
扉を閉める前に視線をやると
変わらずそこにとどまっていた
春の名残がひとひら、


自由詩 春の名残 Copyright あ。 2012-04-23 17:13:52
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