言葉は生きている
まーつん

言葉は 世界を変え得るだろうか
病を癒せるだろうか
絶望に塗りつぶされた 魂の闇夜に
明けの明星を 手繰り寄せ得るだろうか

今日も 書斎の周りには
白いキーボードが貪婪に貪った
文字の食いかすが散らばっている
満腹の鳩にそっぽを向かれた
公園のパン屑のように

君は何のために 文字を綴る?
誰に向けて 何処に宛てて

この指の間からこぼれ落ちていく
無数の砂粒

思考の川床から掬い上げた
文字という名の砂
 
そこに輝く いくばくかの砂金の存在を信じて
今日もズボンの裾をまくりあげ 冷たい水に足を浸す

゛言葉はむなしい゛
…そうだろうか?

゛ただの気休め゛
…そうだろうか?

生みの苦しみ あるいは
血を流す心の指先が 意識の壁に残した 感情の血痕

その 斜めに引きずるような
ロールシャッハ・テストの 謎めいたシルエットの様な
深紅の領域が 蟻の群れの様に あるいは 蛆の群れの様に
うごめき のたうつ 文字の 一匹 一匹となって
頭の中の小部屋の 壁紙の上を這いまわる

君はそれが気になって 紙の上に 吐き出してしまうまでは
安らかに 眠ることさえできない

だから真夜中 机の前に腰かけ 逃げ回る文字を捕まえては
開いたノートの上に ペン先で釘づけにしていく

そう もしかして
言葉は本当に 生きているのかも

蛆が 腐乱した死体を噛み砕くように
膿み爛れた記憶を粉々にして
心の深層に広く横たわる
無意識の大地に還し

蟻が わが身を覆う程の荷物を背負うように
大きく実った想いを運んで
心の表層を広く覆っている
意識の土壌を富まし

内なる世界に なにか 忌まわしいもの 美しいものを育んでいく
それは森となって生い茂り 花となって咲き誇り
目に映る世界の 受け取り方さえ変えていき
その人の生き方をも 新しい色で染めていく

もし 言葉がそのように あらゆる記憶の分子 その結びつきをほどいて
形なき原初の姿に返す 過程の一端を担っているのなら

そして

もし 言葉がそのように あらゆる思考の分子 その結びつきを強めて
形ある行動へと駆り立てる 過程の一端を担っているのなら

そう もしかして
言葉は本当に 生きているのかも

そして命あるものすべてがそうであるように
ある種の 力を宿しているのかも

かつて ある男が語ったように
疑いから 逃れることのできない
無数の 聴衆の前で
言い放ったように


山をも動かす力を









自由詩 言葉は生きている Copyright まーつん 2012-04-19 23:14:04
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