真っ白い雪
百瀬朝子

真っ白い雪
降りたてのやわらかい絨毯
靴の底
磨り減るほど磨いても
素足になっても
足を入れれば汚れてしまう

あれは幼い日
唇を舌でなぞっては
はみ出した
北風に吹かれて
鼻の下の
唇のひとまわり大きいところ
はみ出したところが
赤く浮き出す
冬のあいだ、くりかえす

リップクリームのべとべとが嫌い
母さんの手はかさかさだった
あれはアカギレ
大人になった私とおんなじ手

真っ白さに躊躇って
灰色の空を仰ぐ

静かに降る雪
陽が落ちて
あたりが暗くなり始め
街頭の明かりがともり
昼と夜が入れ替わる

みんないつか子どもだった
(くせに)
忘れて大人のふりしてる
子どものふりはできないくせに
すべて忘れて大人のふり


自由詩 真っ白い雪 Copyright 百瀬朝子 2012-04-17 22:35:49
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