口ずさむひと
恋月 ぴの
四月病ってあるらしい
さりとて年度替りの初々しい賑わいとは
とうに縁遠くなっているのだから
花散らしの雨もあがり葉桜と化した桜並木を
これでよいのだと独りごちながら歩む
※
しっくりしなかったのに
いつの間にやら馴染んでいる
私たちの時代とは異なって
厚塗りのお化け顔とか見かけないけど
こころの内はまっさらなままでいて欲しいと願う
※
お花見はと見上げてしまいがちだけど
足元にも春は訪れてくれていて
名も知らぬ可憐な花々が陽だまりを春色に飾り
その他大勢じゃ、失礼だよね
春になる度に野草の名前ぐらい覚えなくちゃと思いつつ
※
四月病ってあるらしい
さりとて他の誰かになれるものでも無く
仕舞い損ねたコートの重さに驚き
見かけ倒しな振る舞いなど私には似合わないのだからと
通いなれた道すがら、懐かしい恋の歌など口ずさむ