ハトムネの胸騒ぎ
灰泥軽茶

彼はハトムネを二羽飼っています

以前彼はハトの形をした
クッキーを作る工場で働いていました
或る日彼は眠くてたまらずたまらず
たくさんのハトの形をしたクッキーが流れる
ベルトコンベアーに倒れこんでしまいました

たくさんの散り散りなったクッキー
運悪く壊れた機械は
生産ラインをとめてしまい
彼はくびになりました

その日の夜とぼとぼ帰宅していると
なんだか言いようのない胸騒ぎがするのです
そして胸のあたりがぴくぴく痙攣し

ホロッホー
ホロホロッホー

と彼の耳に聴こえるか聴こえないかの声で
ハトの鳴き声が聴こえるのです

これは何かの幻聴幻聴と
顔面を勢いよく両手で張り
帰宅し服を脱ぐと
胸の辺りがほんのりもりあがり
仲良くクッキーの形をした
ハトが二羽向かい合わせでくっついていました

それ以来彼はときどき言いようのない胸騒ぎと

それで何かのお告げを聴くようになったり
前触れを予知できるようになった訳ではなく

小さな声のハトの鳴き声を聴くようになり
年中べストを着用するようになり
クッキーが食べれなくなり
豆が大好物になりました

ただ一点道には異様に詳しくなり
今は始終ラジオをつけながら
腕の良いタクシーのドライバーをしています






自由詩 ハトムネの胸騒ぎ Copyright 灰泥軽茶 2012-04-16 03:31:53
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