(仮題/メモ/断片)夏にくる記憶、羅列、季節のろれつ、、
風呂奴

1

視線の先では
青天を浴びた午後の花
掠れたホワイトピンクが 風を聴きながら
真珠のように黙り込んでいた

ノートを片手に 煙草を吸って
通り過ぎる景色を文字にする
開けっ放しの窓のように 耳を澄ませて
せせらぐ川から 鳥のくちぶえ
ジーンズをよじ登る 蟻の芸当
飲み込む飲料水 遠方の乗用車
鼓膜のなかで交差する 日曜日の断片を
文字で少しずつ縫合してゆく

ほつれた箇所には 思い出を付け足した
夏の匂いや輪郭を 勝手に括り付けて
それでも1枚の詩になり損ねたら
何度も耳を傾ける 沈黙を守るその花に
何度でも


2

ある朝 虫かごを覗いたら
2匹のトンボが石になっていた
耳元で虫かごを揺らしたら
スナック菓子のように 軽快に踊っていた

あれから十数年 学生服から開放された2年後の冬
祖母は仏壇の向こうへ行った
納棺の前に 体を拭いたり化粧をしたりする中で
あの夜 祖母は
目の前の花のように静かだった
名前の代わりに 「おばあちゃん、」と心のどこかで呟いた
名前を知らないそれを 「花、」と書き留めた今しがたのように
石みたいに硬直していた肉体は 石よりもずっと冷たかった
氷みたいに溶けそうな体温とその比喩は 翌日火葬場の火で透明に蒸発した


3

先日 帰省した兄とともにお墓参りへ行った
墓場には拝む命と拝まれる命があって
かつては おばあちゃんも隣で手を合わせていたのだ
死者という違和感は 詩の外ではじめて詠まれるとか
なんとない思弁が なんとなく続いた



、、、パタンッ!とノートを閉じると
吸い殻は宙を舞った
立ち上がって 歩き出す
川の流れを 背中で聴いて
回想を置き忘れたかのように
なんとなくもう一度振りかえる

視線の先では
掠れたホワイトピンクがやはり咲いていた


自由詩 (仮題/メモ/断片)夏にくる記憶、羅列、季節のろれつ、、 Copyright 風呂奴 2012-04-15 15:50:34
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